転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
111 忘れられてた冷蔵庫の中身
魔法の本のおかげで魔法を込める魔道具の事がいろんな事が解ったけど、タリスマンを作るための魔法陣は街まで行かないと買えないし武器や防具も作れないから今の所何も作る事が出来ないんだよね。
と言う訳でこの魔道具を作るのはまた今度。
でもまだお昼前だし、折角だから午後からは本に書かれてる魔法を覚えたいからって司書のおじさんに、
「この魔法のご本、借りてっていい?」
って聞いてみたらいいよって言ったから、それを持って僕はお家に帰ったんだ。
「ただいま!」
「お帰りなさい。あら、本を借りてきたの?」
「うん! 新しい魔法が覚えたいから、司書のおじさんに言って貸してもらったんだ」
家に帰るとお母さんが僕の持ってる本を見て聞いてきたから、新しい魔法を覚えるんだって教えてあげたんだ。
「あら、借りてきたのは魔法の本なの?」
ところが、それを話すとお母さんは不思議そうにそう聞き返してきたんだよね。
何でだろう? 僕が魔法の本を借りてくるの、そんなに不思議かなぁ?
そう思って聞いてみたら、お母さんはこんな事を言ったんだ。
「ああ、違うのよ。この間行ったイーノックカウでルディーンが変な物を買ってきたでしょ? だからてっきりそれの使い方が書いてある本を借りてきたのかな? ってお母さん、思っちゃったのよ」
「変な物?」
何の事だろう? そう思いながら僕が頭をこてんと倒すと、その姿を見たお母さんが笑いながら何の事を言ってるのか教えてくれたんだ。
「ほら、この間作った冷蔵庫って言う魔道具に帰ってきたらすぐ入れてたでしょ。えっと、確か”なまくりむ”だっけ? そんな名前のを銅の筒に入れて持って帰って来たじゃない」
そうだ、忘れてた。
知らない魔法がある事が解ってその事ばっかり考えてたから、一度冷蔵庫に入れてしまった生クリームの事をすっかり忘れてたんだよね。
でも折角思い出したんだし、お母さんもいるから生クリームで何か作ってみようかな? 丁度魔法の本にも、いい魔法が載ってたし。
「お母さん! あのね、買ってきた生クリームでお菓子作りたいから、手伝って」
「あらあら、あの”なまくりむ”と言うのはお菓子の材料だったのね。いいわよ。私もお菓子は大好きですもの。一緒に作りましょう」
お母さんが手伝ってくれる事になったから、僕は早速生クリームでお菓子を作る事にしたんだ。
僕はお母さんに小麦粉を出してもらうと適当な量をボウルに入れて、そこにスプーンを使ってちょびっとだけベーキングパウダーモドキを入れる。本当はちゃんとした量を入れないといけないんだろうけどそんなの知らないし、足らなくて膨らまないより入れすぎて苦い方がいやだから、ホントにちょびっとね。
「お母さん、パンを作る時みたいに、この粉を振るっといて」
「粉を振るうの? いいわよ」
お母さんに作業を頼んだ僕は、今から作るお菓子に使う分だけお砂糖を壷から出して、小さめの器に入れた。
町で売ってるのや僕が魔法で作るお砂糖はザラメのように大きめの粒だから、このままだと解けにくいんだよね。
だから生クリームを買った時には混ぜるのには木の棒で突いて細かくしなきゃいけないなぁなんて思ってたんだけど、昨日読んだ本に丁度いい魔法が載ってたから僕はそれでお砂糖を粉にする事にしたんだ。
僕が見つけたのはクラッシュって言う一般魔法。
この魔法って本には工事をしたり畑を開墾する時に邪魔な石や岩を砕いて砂にする魔法って書いてあったんだけど、これってどうやら一定の硬さがあれば何でも砕けるみたいなんだ。
それならお砂糖を粉にするのにも使えるんじゃないかって、僕は考えたって訳。
と言う訳で、早速魔力を体に循環させてお砂糖にクラッシュの魔法をかけてみたんだ。
「あっ、ちょっと細かくなった。でもまだ粒が大きいかな?」
一度使ってみたんだけど、まだちょっと粒が大きいみたい。だから僕はもう一回やってみようってクラッシュをお砂糖にかけなおしてみたら、さっきよりもっと細かくなったんだよね。
「これならもう溶けそうだけど……やっぱりもう一回。クラッシュ。うん、これなら大丈夫」
生クリームに入れるのはさっきの位の大きさでもいいだろうけど、小麦粉に混ぜるほうはもっと細かいほうがいいかな? って思った僕は、もう一度クラッシュの魔法をかけて、さらさらとしたお砂糖になるまで細かくしたんだ。
「あら、お料理に使える魔法なんて物もあるのね。そんな便利な魔法があるのなら、残りのも細かくしてもらおうかしら」
「お砂糖を細かくするの? いいよ」
そんな僕の魔法をお母さんは小麦粉を振るいながら見てたみたい。
細かいお砂糖は溶けるのも早いしお料理を作るときに楽だからって、結局うちにある残りのお砂糖にもクラッシュをかけたんだ。ただ、あんまり細かくすると雲のお菓子を作るときに困っちゃうから、1回だけね。
魔法をかけ終わったところでお菓子作りを再開。
お母さんにはさっき振るった小麦粉にお砂糖を混ぜて、そこに卵と牛乳も入れてちょっともったりするくらいまで溶かしてもらう。で、その間に僕は秘密兵器を取り出したんだ。
その秘密兵器って言うのは、前にお母さんに作ってあげた泡だて器の魔道具。
生クリームをかき回すのってホント大変なんだよね。でも、これがあれば僕でも簡単にホイップクリームにする事が出来るんだよね。
と言うわけで、買ってきた生クリームをボウルに移し、そこにお砂糖を入れてスイッチオン! 回る針金部分が一箇所しか無いからそんなに早くはできないけど、それでもかなりのペースでかき回された生クリームはだんだん固まって行く。
「へぇ、これって牛乳みたいなのに、卵みたいにかき回すと固まって行くのね」
それを見たお母さんは、驚きながらもそう言って感心してたんだ。
「お母さん、出来た? なら、それを鉄板で焼いて。そしたらこれをかけて食べるんだ」
「あら、これはパンみたいに釜で焼くんじゃないの?」
そんなお母さんに生地ができたのなら焼いてって頼んだら、こんな答えが帰って来た。
そう言えばパンを作るみたいに粉を振るってって言ったから、勘違いしちゃったんだね。
だから僕は一度泡だて器の魔道具を止めて、お母さんにどれくらいの大きさで焼くのかを教えてあげる。
本当なら焼いて見せるのが一番なんだろうけど、僕はまだ火を使うところには近づかせてもらえないから手でこれくらいだよって教えてあげたんだよ。そしたら、なんとお母さんは一度でうまく焼き上げちゃったんだ。
「わぁ、お母さん、すごいや」
「ふふふっ、毎日お料理をしているんですもの。これくらい当然よ」
ちょびっとだけ入れたベーキングパウダーモドキだけど、少し膨らみ方がたらない気がするものの、ぺったんこと言う訳でも無いから多分大丈夫だと思う。そしてどんどん焼きあがるのを見た僕は、慌てて泡だて器のスイッチを入れてポイップを再開した。
「何を作ってるの? 物凄くいい匂いがするんだけど」
「るでぃーんにいちゃ! なにつくってんの?」
とその時、いつものように雲のお菓子をねだりに来たのかヒルダ姉ちゃんがスティナちゃんを連れてやってきたんだけど、二人はいつもとは違う甘い匂いに誘われたのか家に入ってくるなり、なんとキッチンに直行してきたんだ。
「新しいお菓子だよ。あっ、でもパンみたいな物だから、お昼ごはんかも」
「えっと……それって、前にレーアが言ってた甘いパンの事?」
「違うよ! 新しいお菓子だって言ってるじゃないか」
多分、ヒルダ姉ちゃんは昔僕が作った蒸しパンの事を言ってるんだと思う。
でもそっか、ベーキングパウダーモドキが手に入ったんだから、これで蒸しパンも作れるんだっけ。今度作ろうかな?
そんな僕とヒルダ姉ちゃんをよそに、スティナちゃんはテーブルについて食べる気満々。僕たちが作り終えるのを今か今かと待ってるんだよね。だから僕は、
「お母さん。僕のほうはもう良さそうだし、スティナちゃんが待ってるから焼けたのをお皿に乗っけて」
「ちょっと待ってね」
お母さんが焼いてくれた物をお皿に乗っけて差し出してくれたから、僕はその上にできたてのホイップクリームをスプーンで掬って盛り付けた。そしてその皿をスティナちゃんに差し出したんだ。
「はい。パンケーキの生クリーム乗せだよ。まだパンケーキが熱いかもしれないから、気をつけてね」
「あい!」
元気にそう返事をしたスティナちゃんは、フォークを使ってちょっとだけ切り取るとそのままパクリ。そしてそれからは、口の周りを生クリームでべたべたにしながら嬉しそうに次々と頬張ったんだ。
「スティナったら、あんなに口の周りを汚して。でも、余程気に入ったみたいね。ルディーン、私にも頂戴」
「ヒルダ姉ちゃん、僕もお母さんもまだ食べて無いんだよ! だからヒルダ姉ちゃんのは、お母さんが全部焼きあがってからね」
「え〜、そんなぁ」
この後、スティナちゃんの、
「おかぁり!」
の声が何度かキッチンに響き渡り、その様子にこのままでは何時までたっても自分の口に入らないと考えたヒルダ姉ちゃんがお母さんと一緒にパンケーキを焼き始めたおかげで、スティナちゃんに全部食べられてしまう前に僕たちも無事、食べることができたんだ。
クラッシュですが、通常は工事などで使われる魔法なので普通は料理に使うなんて事はありません。
ですがある程度の硬度があればどんな物でも砕けるので、実は小麦や米、トウモロコシなどの穀物の粉も簡単に作る事が出来ます。
この使い方が広まれば、かなり世の中が便利になるんですけどねぇ。